少子高齢化が進む中、介護の現場では人手不足や職員の負担増など、さまざまな課題が浮き彫りになっています。一方で、ICT技術の導入や働き方改革など、現場を支える新たな取り組みも始まっています。
本記事では、介護現場が抱える問題点と、その解決に向けた最新の動きをわかりやすく解説します。
介護現場の現状と直面する課題
少子高齢化がもたらす介護の需要拡大
日本は、今まさに世界でも前例のない「超高齢社会」に突入しています。2023年時点で、65歳以上の高齢者は全人口の29.1%を占め、2025年にはその割合が30%を超えると予測されています。

高齢者の増加に伴い、介護を必要とする人も急速に増えており、介護サービスの需要は年々高まっています。
特に、団塊世代が75歳以上となる「2025年問題」や、2040年には人口の約34.8%が高齢者になるという見通しは、介護現場にとって深刻な課題です。
さらに、地域によって高齢化の進み具合に差があることも問題です。地方では特に医療・介護サービスの需要が集中しており、施設や人員の不足が顕著に見られます。つまり、介護を必要とする人が増える一方で、それを支える体制が追いついていない現状があるのです。
深刻化する人材不足の実態
介護業界における最大の課題の一つが「人材不足」です。2019年の調査では、介護事業所の約65%が人手不足を感じていると回答しており、この傾向はいまも変わっていません。国の試算では、2035年には約297万人もの介護人材が不足すると見込まれています。
この背景には、給与水準の低さや、身体的・精神的にハードな職場環境があります。さらに、介護職員自身の高齢化も進んでおり、現場では若手の担い手不足が深刻です。こうした状況が続くことで、サービスの質の低下や職員の負担増加が懸念されています。人材の確保と育成、そして働きやすい環境づくりが、今後の大きな鍵となります。
職員の過重労働と離職率の増加

介護の現場では、過重労働が大きな問題となっています。体力的にも精神的にも負担が大きいにもかかわらず、賃金が低いために離職する人が後を絶ちません。
実際、介護職員の離職率は他業種に比べても高く、2023年時点でも依然として改善の兆しは見えにくい状況です。
また、スタッフの人数が不足しているため、一人あたりの業務量が増え、長時間労働が常態化しています。結果として、職員同士の連携が取りづらくなり、利用者へのケアが十分に行き届かないという悪循環が生まれています。現場の働き方改革や業務負担の軽減が、離職防止とサービス向上のために欠かせません。
【私の体験談】
母が入居していた老人ホームは「24時間体制」でのケアをうたっていました。しかし看護師さんや介護士さんのやりくりに苦労していたようで、「見舞いに行った時、フロアに人がいない」「ナースコールを数回してやっと来てもらった」ことが時々あり、老人ホーム側も「なんとかやりくりしているんだ。」と思いました。そんな時母親には「自分の体調が深刻でない時は、気長に待ってあげよう。」と話していました。
訪問介護と施設型介護の課題の違い
介護には大きく分けて「訪問介護」と「施設型介護」がありますが、それぞれが異なる課題を抱えています。訪問介護では、職員が利用者の自宅を訪問して支援を行うため、移動時間やスケジュール調整の負担が大きくなります。
また、家庭環境や利用者ごとの状況に合わせた柔軟な対応が求められるため、高いスキルと判断力が必要です。
一方で、施設型介護では、多くの利用者に対して限られたスタッフで対応するため、一人あたりのケア時間が短くなりがちです。さらに、施設の設備や人員が不足している場合には、サービスの質が低下するリスクもあります。それぞれの現場特性を踏まえた支援策の整備が求められています。
介護現場における労働環境の問題
介護職員の多くが、長時間勤務や不規則なシフト制によって慢性的な疲労を抱えています。加えて、利用者やその家族とのコミュニケーションで精神的なストレスを感じることも少なくありません。こうした状況が続くことで、集中力の低下や介護ミスのリスクも高まってしまいます。
このような問題に対応するためには、ICT技術の導入による業務効率化や、スタッフ間の情報共有の見直しなどが重要です。現場の声を反映しながら、安心して働ける環境づくりを進めていくことが、介護の未来を支える第一歩になるでしょう。
課題を引き起こす背景とその要因
人口構造と経済の変化
日本では少子高齢化が急速に進み、高齢者の割合が年々増加しています。2023年時点で高齢者は総人口の29.1%を占め、2025年には団塊世代が75歳以上となることで、介護の需要は一段と高まる見込みです。
一方で、生産年齢人口(15〜64歳)は減少を続けており、介護の担い手不足が深刻化しています。その結果、社会保障制度への負担も増加し、財政面での課題が浮き彫りになっています。こうした人口構造の変化と経済的な圧迫が、介護現場の問題をより複雑にしているのです。
介護職へのネガティブなイメージ
介護の仕事は「体力的に大変」「精神的にもきつい」といった印象を持たれやすく、厳しい労働環境のイメージが根強く残っています。そのため、「割に合わない」「続けられなさそう」と感じる人が多く、介護職を敬遠する傾向が続いています。
このようなイメージが原因で新たな人材が集まりにくくなり、人手不足がさらに悪化するという悪循環を招いています。また、社会全体で介護職の重要性が十分に認識されていないことも、業界の評価を高めるうえで大きな壁となっています。
低賃金問題と職場環境の不満

介護の仕事は人の暮らしを支える大切な職種であるにもかかわらず、他の職種に比べて賃金が低いという現実があります。
2019年度の調査でも、多くの介護施設で職員不足が続いており、その結果、一人ひとりの業務負担が増えています。さらに、職場環境が十分に整っていない場合には、職員の満足度が下がり、離職率が高まる傾向にあります。
このような状況が続くことで、介護現場の疲弊が進み、サービスの質の低下にもつながりかねません。待遇の改善や働きやすい職場づくりが急務です。
技術不足や教育訓練の未整備
介護現場では、職員が必要なスキルや知識を十分に身につけられないまま働いているケースも少なくありません。特に未経験から介護職に就いた人は、現場で即戦力となるまでに時間がかかることが多いです。
また、施設によっては教育体制や研修制度が整っておらず、経験の浅い職員が十分なサポートを受けられないまま現場に立たされることもあります。その結果、業務の効率やサービスの質に影響が出ることもあります。
こうした課題を解決するためには、継続的なスキルアップやリスキリング、実践的な研修の強化が欠かせません。
社会的支援と制度の課題
介護保険制度などの公的支援には一定の役割がありますが、現状では課題も多く残されています。たとえば、介護サービスの報酬(価格設定)の見直しが難しく、事業所の経営を圧迫するケースが見られます。
また、介護を必要としているのに、さまざまな理由でサービスを受けられない「介護難民」と呼ばれる人々の存在も深刻です。このように、社会的支援や制度の仕組みが現場の実態に追いついていないことが、介護業界全体の課題をさらに複雑にしています。より現実に即した制度改革が求められています。
【私の体験談】
私の母のお友達で「介護サービスを受けたいけれど、どこに相談していいのかわからない」「自分の子供が離れて住んでいるので、気軽に相談できない」と仰る方がいたそうです。わからない場合はまず「お住まいの役所」や「地域包括支援センター」に連絡相談されることが大切だと思います。
解決に向けた具体的な取り組み
ICT技術の導入と業務効率化

介護現場では、ICT(情報通信技術)の活用が業務効率化の大きなカギとなっています。
たとえば、タブレットを使った介護記録ソフトを導入すれば、記録作業の時間を大幅に短縮でき、職員の負担を軽減できます。
また、チャットツールや社内SNSなどのコミュニケーションツールを利用することで、情報共有がスムーズになり、現場での連携も強化されます。さらに、勤務シフト作成システムを導入すれば、シフトの偏りを防ぎ、職員一人ひとりの働きやすさを確保することも可能です。
このように、ICT技術を活用した「介護DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進は、介護現場の課題解決に向けた有力な手段として期待されています。
職員の福利厚生や処遇改善
介護の仕事は、人の生活を支える大切な職業である一方、過酷な労働環境が問題視されています。そのため、職員の福利厚生や処遇の改善が急務です。
具体的には、給与水準の引き上げや、職員のメンタルケア体制の充実が重要です。また、ワークライフバランスを意識した柔軟な勤務体系の導入や、休暇を取りやすくする仕組みづくりも効果的です。
こうした取り組みが進むことで、介護職員が安心して長く働ける環境が整い、離職率の低下や人材の定着にもつながります。
介護の多様な働き方の促進
近年、介護現場でも多様な働き方を受け入れる動きが広がっています。短時間勤務やフレックスタイム制、在宅での事務作業など、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が導入されつつあります。
また、副業や兼業を認める施設も増えており、職員が収入面の不安を軽減できる仕組みが整えられています。このような柔軟な働き方の推進は、介護職に対するイメージを明るく変え、子育て世代や定年後の人など、より幅広い層の人材を介護業界に呼び込むきっかけにもなるでしょう。
リスキリングを通じた職員教育
介護の現場では、「人材不足を補いながら質を高めるためのリスキリング(学び直し)」が注目されています。たとえば、認知症ケアや緊急時の対応、ICTツールの活用方法など、現場で役立つ研修プログラムを充実させることが求められています。
さらに、オンライン研修やeラーニングを活用すれば、場所や時間にとらわれず学びを続けることができます。こうした継続的なスキルアップは、介護の質の向上だけでなく、職員の自信やモチベーションの向上にもつながります。
地域社会や行政との連携強化

介護現場の課題を根本から解決するには、地域社会や行政との連携が欠かせません
地域住民や自治体、医療機関などが協力して支え合う「地域包括ケアシステム」の整備や、高齢者向けの地域支援サービスの充実が重要です。
また、行政が用意する補助金や助成金を上手に活用し、施設運営や職員支援に生かす取り組みも進められています。こうした連携の強化は、介護現場の負担軽減にとどまらず、地域全体で高齢者を支える仕組みづくりにもつながっていきます。
未来に向けた介護業界の展望
超高齢社会における新たな需要
日本は今、世界の中でも前例のないスピードで超高齢社会へと進んでいます。2023年時点で65歳以上の高齢者は全人口の約29.1%を占め、2025年には約3,677万人に達すると見込まれています。こうした中で、介護の需要は今後も確実に増えていくと考えられます。
特に、認知症ケアやヤングケアラー支援といった、これまで以上に多様なニーズへの対応が求められています。
AIやロボット技術の活用可能性
AI(人工知能)やロボット技術の進化は、介護現場の課題を解決するための大きな力になりつつあります。たとえば、AIによる介護記録の自動化や、見守りロボットによる安全管理の効率化など、実際に現場で成果を上げ始めています。
さらに、移動支援ロボットや食事補助ロボットといった最新技術の導入によって、職員の負担軽減と利用者の満足度向上の両立が期待されています。テクノロジーの活用は、今後の介護を支える重要な要素といえるでしょう。
グローバル化による人材確保

深刻な介護人材不足は、業界全体の大きな課題です。厚生労働省の試算では、2035年までに約297万人の介護人材が不足すると見込まれています。
この問題を乗り越えるためには、国内の人材育成だけでなく、海外からの人材受け入れも欠かせません。
特定技能制度などを活用し、外国人介護スタッフが安心して働ける環境づくりを進めることで、多様な人材が活躍できるグローバルな介護現場が実現していくでしょう。
高齢者世代との共生社会の実現
これからの社会に必要なのは、高齢者を「支える側」と「支えられる側」に分けるのではなく、共に生きるという発想です。高齢者自身が地域や経済活動に参加することで、生きがいを感じながら社会の一員として活躍することができます。
たとえば、シニアによるボランティア活動や地域コミュニティ運営、シルバー人材センターでの就労などは、共生社会の実現に向けた大切な一歩となっています。
持続可能な介護サービスの追求
介護の質を保ちながら、長期的に持続可能な仕組みを作ることも重要です。そのためには、ICTの活用による業務効率化や在宅介護の推進、そして地域・行政との連携強化が欠かせません。また、介護保険制度の見直しや財政的な安定性の確保も大きな課題です。
すべての世代が安心して老後を迎えられる社会をつくるために、介護業界は今後も新しい挑戦を続けていくことが求められています。
